鍛造のジュエリーができるまで・前編

こんにちは。オンラインストア担当の荒瀬です。

humでは、現在、ジュエリーの制作方法を鋳造から鍛造へと順次切り替えています。

humオフィシャルサイト”Journal” 「鋳造から鍛造へ」

鍛造製法とは、金属を叩いたり伸ばしたり曲げたりして圧力を加えることで、強度を高めながらひとつひとつ形作る方法のこと。

昨年末に当ブログでご紹介したTHE SYMBOL OF REFINED METALのほか、Diamond GENSEKI RINGなどの一点物、Rosecut Diamond Pierced earringsも鍛造で作られているコレクションです。

例えばリングを作るにしても、最初から円形なっているわけではありません。金属の塊を叩く・なます・伸ばす・・・、と作業を繰り返して、円を作り、やっとリングの形が出来上がります。場合によっては金属を溶解するところからスタートすることも。

彫り模様やダイヤモンド、仕上げの加工など最終的な商品としてのデザインは異なりますが、その前の工程は共通しており、今後のhumのジュエリー制作では欠かすことができません。

そんな基本の「溶かす・叩く・伸ばす」という3つの工程を、ジュエリー制作素人の荒瀬が実験形式で体験しました。

humの鍛造ジュエリーが出来上がるまでのほんの一部をお見せしながら、金属特性をレポートするとともに、そもそも鍛造ってどんなことをしているの?大変な作業なの?といった素朴な疑問についても、この記事を通してお伝えしていきます。

「誰が誰のためにどのように作るのか」

humのアトリエで、humの職人が、手間暇を惜しまずに制作するジュエリーの価値や込められた想いを、少しでも多くの方にお伝えすることができれば幸いです。

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【実験に使用する金属と特徴】

実験に使用した金属は3種類。今回は、純プラチナや純金ではなく、割金を混ぜた”合金”を使用します。humのジュエリーでも使用されることの多い、PT950(プラチナ)・K18(ゴールド)・SV925(シルバー)です。

それぞれの金属には特徴があります。

プラチナは変色がほぼ無く、ダイヤモンドと組み合わせて使用されることも多いため、ブライダルリングで選ばれる方が多くいらっしゃいます。一方で職人に話を聞くと、粘性があるため加工が難しいという側面もあるのだとか。ヤスリで削るのに時間がかかったり、彫った際の突起が他の貴金属に比べて取り除きにくかったり・・・。スパっといかない分、時間がかかるそうです。

K18ゴールドは、割金の配合によって表現される豊富な色が特徴。humでもイエローゴールド・グリーンゴールド・ホワイトゴールドなどがあり、色味はもちろん、柔らかさなどの特性に合わせたデザインや加工を行っています。

Humete Chain Braceletなどでもお馴染みのシルバーは、カジュアルに身に着けられて、他の2種に比べると軽くて柔らかい金属です。華奢なデザインでは変形しやすく、また硫化による変色を起こしやすいため、humではボリュームのあるデザインや、燻し加工を施して、その風合いや経年変化をお楽しみいただいています。

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【実験手順とポイント】

実験は以下の手順で行います。先にご紹介した「溶かす・叩く・伸ばす」という3つの工程と、最後に計測も行います。

1. 溶解・凝固
金属に火を当て、溶解します。溶けた金属を型に流し込み、凝固させます。
溶けやすさ(融点の違い)などを検証します。

2. 叩く
凝固した金属を叩き、締めます。これによって密度・強度が増します。
叩いた感覚で柔らかさを体感します。

3. 延ばす
圧延ローラーを使用して均一に棒状に延ばします。
柔らかさの違いを加工しながら検証します。

4. 計測
直径・長さを揃えてカットし、重量を計測します。

 

それでは、早速レポートしてまいります!

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1. 溶解・凝固

実験にあたり、工場長・土屋に地金を用意してもらいました。それぞれ約6.3g(リングを1本作れるくらい)を使用します。指導は、THE SYMBOL OF REFINED METALの制作を担当している職人・高野にお願いしました。

まずはガスバーナーの使い方から。左の赤いツマミがガス、右の黒いツマミが酸素で、その開閉を調節して適切な火力にしていきます。

普段ガスバーナーはもちろん、ライターも使用しない私は、火をつけるのにも一苦労。手元で青い炎が噴き出すだけで手に汗握ります。

【シルバー】

溶解皿に素材を乗せ、火を当てていきます。溶解皿の表面にはフラックスという薬品が塗ってあり、溶解の際に浮き出る不純物を付着させ取り除く役割があります。

今回実験した3種類の金属の中で一番融点の低いシルバーは、火を当てて間もなく溶け始め、30秒ほどであっという間に溶けきりました。溶けて一つにまとまったら、溶解皿の上で転がしながら不純物を取り除き、”置き型”という長方形の型に流し込んで簡易的に成型します。

左手のガスバーナーで金属に火を当て続けながら、右手にユトリ箸を持って溶解皿を掴み、約4.5mm幅の置き型に溶解した金属を流し込む。高温の炎とドロドロの金属を持ち、尚且つ左右で別の動きをする、という手元が一瞬でも狂うと事故になりかねない状況に緊張しっぱなしです。

【ゴールド】

ゴールドもシルバーと同じく溶解皿の上で溶かします。ただし、金属が混ざるのを防ぐため、シルバーとゴールドはそれぞれ専用の溶解皿を使用します。

シルバーに比べ融点の高いゴールドは、シルバーよりも溶け始めるのに若干時間が掛かりましたが、約1分で溶解しました。体感でも大差はありません。

シルバーとゴールドは、置き型に流し込んで凝固した後に、水に硫酸を加えた薬品に浸ける”酸洗い”を行い、フラックスを落として終了です。

酸洗いに使用される硫酸も、もちろん直接触れると危険な液体。一つ一つの工程・使用する道具や薬品には危険がつきもので、慎重な作業・集中力が求められます。

【プラチナ】

最後はプラチナです。

シルバー・ゴールドよりも圧倒的に融点の高いプラチナ。事前にWORKSHOP NANOKAWA・小野職人・神田からも「熱いからくれぐれも気をつけて!」と忠告を受けていました。

融点が高いだけあって、使用する道具も変わります。溶解皿・置き型・ピンセットはその熱に耐えられず、またフラックスも揮発してしまうので使用できません。さらに、熱していくうちにプラチナが強く発光するため、サングラスも必須。他の2種類の金属とは始まる前から様子が違い、緊張感が高まります。

小野や神田の言葉を胸に、覚悟を決めていざプラチナ溶解スタート。

火を当ててもなかなか溶けず、顔が熱くなってきました。1分ほど経過したところでようやく端が溶け始め、その後も敷いてあるレンガを回しながら火を当て続けて、約4分で全てが溶けきりました。その間、温度の高い外炎を当て続けなければならず、これまで以上に集中します。

よく「プラチナは融点が高い」と聞くものの、実際に自分の手で溶解を行うと、シルバー・ゴールドとは要する時間、発せられる熱と光が圧倒的に違います。

そのまま凝固し、ころんと丸い塊になりました。フラックスを使用していないため、酸洗いは不要です。

熱いのはもちろんですが、何よりも驚いたのはその光の強さ。サングラス越しでも眩しく、見続けるのが辛く感じるほど。その後しばらく残像が残っていました。

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2. 叩く

次は、凝固した金属を金槌で叩く工程。

溶解・凝固したままだと金属の中がスカスカで脆い状態のため、叩くことでより密に、強固にしていきます。面の部分に加えて角の部分もくまなく叩くことで、以降の工程でのヒビ割れを予防します。

「鍛造」という言葉の通り、金属を叩くことで強度が増す、金属を「鍛える」ための重要な工程です。

【プラチナ】

溶解・凝固の時点で、丸い塊になったプラチナ。次の工程(圧延)の作業がしやすいよう、シルバーやゴールドと同じように一度長方形に成形します。

高野に少し叩いてもらい、長方形に近づいたところでバトンタッチ。置き型で成型したシルバー・ゴールドの形に近づくまで叩き進めます。

”叩く”という点では単純な作業ですが、実際にやってみると金槌への力の伝え方が難しく、金槌を持つ手もプラチナを押さえる手も両方力んでしまいます。筋力はある方だと自負しているのですが、金槌は重いし、手は痛いし、なかなか思った通りにはいきません。普段アトリエから聞こえてくる心地よい音とは全く違い、なんとなくスッキリしないような、鈍くて当たり所の悪い音です。

不慣れながらも、手元からプラチナの特性を感じ取れるよう、感覚を研ぎ澄ませて叩いていきます。プラチナといえば、”粘り強い”金属。一つ叩くごとに形が変わり、さらに注意深く観察していると、プラチナを掴んでいたヤットコ(ペンチ)の形に沿ってじわじわと伸び広がっていくのが分かります。

高野に手伝ってもらいながらなんとか形にして、数回圧延して長方形になりました。 


左から、酸洗いを終えたゴールド・シルバー(置き型で成型)と、叩いて長方形になったプラチナ。同じ重量ですが体積が異なります。

【シルバー】

シルバーは柔らかく、叩いて変形していく様子が見た目にも分かり易く現れます。金槌で叩いた際につく跡を”槌目模様”と呼びますが、シルバーはその槌目模様がくっきりとシャープに刻まれました。

【ゴールド】

プラチナ・シルバーと比べると硬いゴールド。叩く手元の感覚が硬く、音も高く鋭く聞こえます。慣れない作業ということもあり、叩き続けてもなかなか変化が見て取れず、きちんと叩けているという感覚が掴みづらく苦戦しました。シルバーではくっきりと付いた槌目模様も緩やかです。

シルバーとゴールドは途中に”なまし”という作業を挟みながら叩きます。

金属は叩いていくうちに硬く締まるため、途中火で熱し金属を柔らかくしてから再度叩くことで、加工しやすく、ヒビ割れも防ぐことができます。

叩く→なます→叩く→なます、という地道な作業の繰り返し。ちなみに、プラチナは融点が高いため、なますことができません。

満遍なく叩いたら、次の工程に移ります。

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圧延ローラーを使った「延ばす」工程と「計測」は、次週3月4日(金)のブログでお届けします。

ちなみに、ここまでの工程で掛かった時間は約45分。まだまだ危険な作業は続きます。

本日も最後までお読みいただきありがとうございました。

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冒頭でもご紹介した、鍛造製法で作られたDiamond GENSEKI RINGのオンライン販売は2月28日(月)18時で終了いたします。

気になる方はこの機会にぜひご検討ください。

Diamond GENSEKI RING

Diamond GENSEKI RING【Loose Order】