THE SYMBOL OF REFINED METAL - 制作の裏側・前編 -

こんにちは、オンラインストア担当の荒瀬です。

9月に販売を開始した、THE SYMBOL OF REFINED METAL。既に多くの方々にお手に取っていただき、職人や販売スタッフへ温かいお言葉を頂戴したり、早速身に着けて店舗にご来店いただいたりと、本コレクションを通してhumの思想や価値観がじわりと浸透し、またお客様とのコミュニケーションがより一層深まっていることを大変嬉しく思います。ありがとうございます。

そこで、本日より2回にわたり、そのTHE SYMBOL OF REFINED METALの制作をメインで担当している職人・高野へのインタビューを公開いたします。商品の作りの面でのこだわりや苦労話などの制作秘話、更にこれまでにいただいた質問や、高野自身がおすすめするアイテムも聞きました。

また、本コレクションはオンラインストアのみの展開のため、商品は気になっているけれどオンラインで購入することに一歩踏み出せない方や、品質や着け心地が気になるという方もいらっしゃると思います。そのような不安や疑問を、この記事を通して少しでも解消できればと思います。

少しマニアックな話になりますが、若手の職人がひとつのコレクションに向き合い、ひたむきに取り組む姿を包み隠さずお伝えしてまいります。(インタビュアー 荒瀬)

インタビューの前に、まずはこの記事を制作するきっかけを荒瀬からお話させてください。

今年8月、THE SYMBOL OF REFINED METALの発売前に、全品番のサンプルを使用してオフシャルサイトやオンラインストアに掲載する写真を職人兼カメラマンの柳生と撮影していました。撮影も終盤に差し掛かり、着用していたブレスレットを外そうとしたところ、フックが固くて外せないというハプニングが発生!すぐに高野に相談して、1日もかからずに修正が仕上がってきました。その対応の速さと黙々と作業に取り組む姿が印象に残っています。

そこで今回は、THE SYMBOL OF REFINED METALの中でも作りの面、特にフックにフィーチャーしようと、高野へのインタビューを思い立ったのです。

高野友裕(職人)

プロフィール:2019年6月hum入社。前職では、シルバージュエリーを中心としたブランドに勤務し、接客と制作を担当し、多忙な日々を過ごす。そんな中、クオリティをとことん追求してみたい、フックの機構を学び、自分自身で制作してみたいと考え始め、humの門を叩く。入社以降は定番コレクションのオーダー品の制作の他、Refine Metal COLLECTIONのファーストコレクションの制作も担当し、今年発売されたTHE SYMBOL OF REFINED METALでは、全ての商品のほとんどの制作工程を任されている。

 

―まず、基本的なことをお聞きするのですが、THE SYMBOL OF REFINED METALのフックはどのような機構になっているのですか?

高野:humの商品の中にも様々な形のフックがあって、それぞれ機構は違うのですが、今回のコレクションに関しては、フックの稼働部分に付いている突起(以下「ストッパー」:引っ掛かりになる部分)が、反対側の短いバーの内側に引っ掛かる仕組みになっています。内側に引っ掛けることで張力が働くのでしっかりと留まり、また摩耗も幾分か少なく長持ちします。

―なるほど。内側に引っ掛けることによるメリットがあるのですね。では、フックが固くて開かなかったときの原因と改善方法は?

高野:内側に引っ掛けることにより生まれる張力がはたらきすぎていることが主な原因と推測しました。改善方法は2パターンのどちらか。まずひとつは、ストッパーにある溝の深さの修正です。

―溝、ですか?(一見してどこを指すのか分からない)

高野:この部分ですね。この溝が深いと、バーが溝にはまり過ぎて外れにくくなってしまうので、周りの山になっている地金を削って溝が浅くなるように調整します。そうすることで、ストッパーの溝がバーを覆いすぎず、開けやすくなります。

―こんなに細かいところの調整なんですね。僅かな調整で、着脱のしやすさが大きく変わるとは驚きです。

高野:もうひとつは、バーの付いているモチーフ自体の角度を調整することです。それによってストッパーとバーの距離が変わり、フックの固さも調整できます。フックが固くて開かないと言われた時も、自分で原因と改善策を見いだしました。初期段階からコレクション制作に関わっていたからこそ、すぐに対応できたんだと思います。

フックを制作する際には、ストッパーの位置を決めてロウ付け(※金属の接合する部分を融点の低い金属で溶接すること)した後にも、火を当てたり、かしめ(※接合部分にはめ込んだ金属を工具で締めて接合部を固くとめること)たりと、様々な手順を踏むのですが、その都度フックの固さも変化するので、調整を繰り返していました。サンプル制作段階でそれを何度も経験していたので、改善はそれほど難しいことではありませんでした。

―確かに、金属は火を当てると収縮しますもんね。当たり前のことではありますが、改めて聞くと地道な修正が必要だということがわかりました。

高野:もうひとつ細かいポイントを言うと、稼働部分のかしめている箇所の隙間がより小さくなるよう努力しています。全てがぴったり重なると、融合しているように見えるんです。

―こんなに僅かな隙間まで!ちなみにサンプル(写真)はどうですか?

高野:これは、正直に言うと少し隙間が気になります。もちろんこの状態で品質には問題ありませんが、より見た目が美しくなるよう、このような部分にもこだわって制作しています。手作りなので、全てを同じようにぴったり作ることは難しいのですが・・・。

―品質はもちろんですが、見た目にもより美しく仕上がるように、こんなに細かいところまで気を配って制作されていたのですね。自分のジュエリーにもより愛着が湧いてきました。ちなみに、ぴったりとくっつくように、水平に削るときに工夫していることはありますか?

高野:ずばり感覚、平衡感覚です。

―感覚ですか!

高野:この部分は、まずは仮止めをしてちゃんと噛み合うか、隙間がないかなどをチェックします。その後ロウ付けで固定するのですが、その際にも金属の収縮があったりロウ材が流れ込んで溜まったりするので、その差を修正していきます。先にお話ししたフックや稼働部分などは、綺麗に形を作る→仮留めして確認→ロウ付けで本留め→その過程で生まれる変化を修正・・・この繰り返しです。

―一つ一つのジュエリーを作りながら、細かい調整が繰り返されているのですね。こちらの商品に限らず、humの商品は常に改良され続けていますよね。例えばバングルにセーフティーが付いたり、フープピアスのかしめの線材を太くして抜けにくくしたり。自社のアトリエで職人の手によって制作されているからこそ、お客様の声を反映しながら細やかな対応できるんだと思います。

ちなみに、今撮影している柳生も、THE SYMBOL OF REFINED METALを制作していますよね。分担や二人の関わり方はどんな感じなんですか?

高野:やはり職人にはそれぞれ得意分野があって、柳生さんは特に磨く作業が早くて綺麗。一方でパーツを形作るのは、力が必要なこともあって僕の方が得意です。一人が一つのオーダー品を最初から最後まで制作することが基本ですが、状況によっては作業を分担して全行程がスムーズに進むよう調整しています。

高野:ファーストコレクションは、アトリエマネージャーの土屋さんも制作に関わっています。その時は、ブレスレット・ネックレスのフックの制作で土屋さんにアドバイスをもらいました。当初制作したフックは、跳ね上げる(外す)ときに指に引っ掛ける部分が短かったんです。それだと見た目は他のパーツと差が無く美しいけれど、爪が短い人などは開け辛い。そこで、引っ掛ける部分を少し長くして、カーブの角度を若干きつくしました。この経験があったので、セカンドコレクションの制作時にもそういったところを意識して作ろうと柳生さんと共有しました。

―ファーストコレクション、セカンドコレクション、さらにその中でもブレスレットとネックレスで複数のデザインがありますよね。アイテムによってフックの形も違うのですか?

高野:はい、違います。分かりやすい部分で言うと、フックの稼働の起点(かしめの位置)が違います。それによって開き方が変わってくるので、ウケが引っ掛かる部分の深さも変わり、着脱のし易さにも繋がります。ちなみに、セカンドコレクションのバングルブレスレットは、ウケ側も動くように作られています。このような工夫がなされているので、着脱もスムーズです。


左:ファーストコレクション(RF2020-BR4)/右:セカンドコレクション(RF2021-BR11)


上:セカンドコレクション(RF2021-BR11)/下:セカンドコレクション(RF2021-BR8)

―humのチェーンブレスレットのフックは、どれもチェーンの流れを遮らないようにデザインされていますが、THE SYMBOL OF REFINED METALも例外ではないですよね。

高野:そうですね。このフックも、一度パーツを作ってから、途中を切って再度フックに組み上げています。サンプル制作時は人によって切る位置に微妙な差がありましたが、その後検討を重ねてベストな位置を導き出して、現在オーダーいただいている商品を作っています。

―1パーツずつを作り上げる、その工程の積み重ねや労力はもちろんのこと、完成した後も手間と時間を費やしてよりよい作品になるよう日々進化しているのですね。

高野さんを中心に、まさにhumチーム一丸となって作り上げたコレクション。チームの中でも職人によって得意分野や考え方も違うと思いますが、完成までの間に悩んだり助け合ったり、といった場面はありましたか?

高野:前述のフックでもそうですし、土屋さんにはアドバイスを求めることが多いです。経験値が高く、尚且つ純粋にパーツの形や仕上がりが綺麗なんです。手作りなので、どうしてもばらつきが出てしまうのですが、一番データを細かくとって制作しているのが土屋さん。仕上がりが均一で、いい意味で機械的です(笑)。なので、そんな土屋さんから盗めるところは盗んで、制作方法の改善に生かしています。


貞清や土屋の書き残したノートを見ながらベストな制作方法を模索。高野のノートにはその苦闘の様子が残っていました。

―具体的な出来事はありましたか?

高野:ファーストコレクション制作時の話です。線形を曲げてパーツを作るときには、地金の内側と外側で金属の引っ張られる具合が違うので、どうしても地金が内側に寄ってしまうんです。寄って盛り上がった部分を、僕はヤスリで削り落としていたのですが、これももちろん感覚なのでどうしてもムラのようなものが出てしまいます。一方で、土屋さんは金床で叩いて平らにしていました。金床の平らな面にパーツを置いて平らなハンマーで叩くことで、より綺麗に水平が出るんです。そして、そのあとに余分を削ります。以降、このやり方に合わせて改善し、綺麗で均一に仕上げることができるようになりました。この手法は、THE SYMBOL OF REFINED METALでも採用しています。

―ほかの職人とのエピソードはありますか?

高野:森山さんには、制作方法の良し悪しなど根本的なことや、このままでいいのか?と機構の部分で迷ったときに相談しています。例えば、前述のフック稼働部分のかしめている箇所は、当初僕なりのやり方でできるだけ綺麗に仕上げようと努力していました。しかし、どうしても隙間ができてしまって。その時は森山さんに相談して、根本的な組み上げ方を変更することで、均一に、なおかつ手間も減り早く仕上がるようになりました。

―性格はもちろん、経験や知識の積み重ね方と、アウトプットの方向性も人それぞれ違って興味深いですね。

 

高野にインタビューをするうちに次々と聞きたいことが出てきて、想定を大幅に越えた長編になったため、ここまでを前編としてお届け。後編では、これまでお客様からいただいたお問い合わせやスタッフから集めた質問に、高野に答えてもらいました。さらに、作り手から見たTHE SYMBOL OF REFINED METALのおすすめアイテムのご紹介も。

12月24日(金)に配信予定ですので、どうぞお楽しみに!

humオフィシャルサイト、Youtubeチャンネル、スタッフインスタグラムにて、THE SYMBOL OF REFINED METALの魅力をお伝えするコンテンツを公開しています。こちらもあわせてご覧ください。

humオフィシャルサイト”Journal” :「REFINE METAL Collection - 3つの魅力」
Youtubeチャンネル”hum jewelry making”:「hum【Refine Metal COLLECTION】Styling looks.
Instagram:MIKI UMAHARA